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金沢地方裁判所 昭和40年(む)15号 判決 1965年2月15日

被疑者 杉浦常男 外五名

決  定

(被疑者氏名略)

右の者らに対する暴力行為等処罰ニ関スル法律違反被疑事件について、金沢簡易裁判所裁判官が昭和四〇年二月一一日になした勾留請求却下の裁判に対し、金沢地方検察庁検察官より、同日右裁判の取消を求める旨の準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告の申立はこれを棄却する。

理由

一、本件準抗告の申立の趣旨および理由は別紙勾留請求却下の裁判に対する準抗告申立書記載のとおりである。

二、被疑者らに対する暴力行為等処罰ニ関スル法律違反被疑事件につき、昭和四〇年二月一一日検察官大和谷毅より刑事訴訟法第六〇条第一項第二号に該当する事由があるとして金沢簡易裁判所裁判官に勾留請求がなされたところ、同裁判所裁判官塚本一夫は勾留の理由がないとして、同日本件勾留請求を却下したことは記録上明白である。

三、ところで、検察官提出の各資料を検討するに、一件資料中の被害者並びに現場目撃者の各供述調書その他関係各資料によれば被疑者らが別紙添付の罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があることは明白である。

そこで右一件記録によつて刑事訴訟法第六〇条第一項第二号の罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由の有無について判断する。

先ず、本件におけるすでに取調べられた証拠について見ると、被害者については警察、検察庁を通じて相当詳細に取調がなされており、また最も重要な参考人と目される斉藤弥三治についても警察において相当詳細に取調が行なわれ、その他、会社側参考人として篠田佐智子、太田仁三郎、藤江義雄の各取調が行なわれ、さらに犯行に使用された万年筆、シヤープペンシルが押収されている。本件の如き事案において証拠としては物証は殆んどなく、人証が主たるものであること、並びに被疑者らは犯行についてはいづれも黙否していること等から考えると本件における証拠の収集は一応終了したものと認むることができる。

被疑者らは犯行については黙否し続けているものであり、かかる被疑者らからは申立人の主張するような事前謀議や犯行の詳細な態様について証拠の収集をなすことは、不可能に近いことであり、また本件被疑事実の現場にいたと目される労働組合員や「石交を守る会」の会員に対する取調を行つても同様、証拠を収集することは殆んど期待できないことは明らかである。そうすれば、捜査上殆んど期待できないと見られる右の点に関して罪証隠滅の虞れがあるとして、被疑者らを勾留することは正当な勾留理由とはなし得ない。そのうえ、被害者や重要参考人である斉藤弥三治の供述並びに、その他会社関係の参考人間に供述のくい違いがなく、ほぼ一致していることから考えても罪証隠滅の虞れがあるとは到底考えられず、さらに被疑者ら釈放後の会社側参考人に対する圧力があつたとしても証拠の収集が一応完了している点から考えて、罪証隠滅の虞れがあるとは考えられず、その他記録上被疑者らが罪証を隠滅すると疑うに足りると認められる点は存しないから、勾留の理由なしとして勾留請求を却下した原決定は相当であり、本件準抗告の申立は理由がないものといわねばならない。

よつて、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項により、これを棄却することとして主文のとおり決定する。

(裁判官 岩崎善四郎 木村幸男 畠山芳治)

(別紙)

犯罪事実

被疑者杉浦常男、池島静枝、田中一郎、宮丸寛はそれぞれ石川交通労働組合の関係団体で石川交通争議を支援するため組織された「石交を守る会」の会員であり、被疑者定免茂雄は、石川交通労働組合の書記長、被疑者山本登、安江明はそれぞれ同労組の執行委員被疑者舛田舛次は同労組の職場委員であるところから、

被疑者等は他の「石交を守る会」の会員および石川交通労働組合の労組員等約十二名と共に、解雇処分の撤回を要求して、

昭和四十年一月二十一日午後一時三十分頃

金沢市彦三六番丁六十一番地 石川交通株式会社

へ押しかけ、被疑者等は共同して

同日午後二時頃より同四時頃までの間、同会社二階会議室において、

金沢市塩屋町百四十番地 寿荘内

石川交通株式会社労務部次長 津田六郎 当四十九年

をとり囲みいわゆる吊し上げを行ない

「絶体帰さんぞ、明日の朝まで頑張るぞ」

「二階から放り出すぞ」

「お前はどんなことになるか分らんぞ」

「仲間が千人いるから徹底的にやるぞ」

等と怒号して脅迫し、被害者が沈黙するや一斉に、

「だまつておらんと言え言え」

と叫びながら椅子の脚を蹴り、机を平手でたたいて、解雇の撤回を発表すべき旨を強要し、右要求に応じなければ集団吊し上げを続行するような気勢を示して畏怖させ、よつて同人をしてその真意に反し、

「時と場合によつては解雇を撤回することもあり得る」

旨の発表を行なわせ、更に同人の気持が疲労困ぱいしているのに乗じ、

「ぐずぐずせんと書け、書け」

とその発表を文書に書くように迫り、同人をして被疑者等の口授に基き

「一月二十三日時と場合によつて解雇を撤回することもあり得ることについて回答する」

旨の文書を強いて作成させ、

以て多衆の威力を示し、且つ数人共同して脅迫したものである。

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